大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和30年(ラ)116号 決定

抗告人 森山三郎(仮名)

原審 神戸家庭裁判所尼崎支部(昭和二七年(家)第六〇二号)

主文

本件抗告を棄却する

抗告費用は抗告人の負担とする

理由

本件抗告の理由は末尾添付別紙抗告の理由記載のとおりである

よつて按ずるに戸籍法第百十条に規定する就籍は本来本籍を有するべきもので未だこれを有しないものについて本籍を設けることであつて日本人でありながら未だ戸籍に記載されていないものについてその記載をする手続にほかならないから戸籍に記載さるべきものでない者については就籍は許されないわけである

ところで当審における抗告人に対する審訊の結果並びに原審における抗告人に対する審問調書中の同人の供述記載によると抗告人の父母がともに知れないことが認められるが抗告人が日本で生れたことを認め得る証拠がないから旧国籍法(明治三十二年法律第六十六号)第一条乃至第四条並びに現行国籍法第二条に徴し抗告人が出生により日本の国籍を取得したものということはできず又抗告人が出生後の事由により日本の国籍を取得した事実を認むべき証拠もないから抗告人については就籍は許されないものというべきである

よつて抗告人の就籍許可の申立を却下した原審判は結局相当であつて本件抗告は理由がないからこれを棄却し抗告費用につき民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用して主文のとおり決定する

(裁判長裁判官 松村寿伝夫 裁判官 藤田弥太郎 裁判官 小野田常太郎)

参照

抗告ノ理由

一 、右決定ハ昭和三十年六月七日申立人ニ送達サレタ

二、抗告人ガ審判申立ノ理由トシテ戸籍ガ無イト申出タノハ自己ノ戸籍無キ事ガ確定シ判然シテ居ルノデハ無ク永イ年月ヲ費シテ何程探シ求メテモ見当ラヌノデ其寄ルベキ戸籍ガ無イトノ意味デ結極今デハ申立人ハ無籍人ト同一デアル

三、尤モ抗告人ハ森山ナル氏丈ケハ判明シテ居ルガ、ソレガ真実ノ抗告人ノ氏ナルヤ否ヤ、抗告人ノ父母ガ森山ナル氏ノ人ナリシヤ否ヤモ不明デ又ソレガ父母ノ真実ノ氏デアツタトシテモ其何レノ親ノ氏ナリシヤ、又父母ガ婚姻ニ依ツテ抗告人ヲ其嫡出子トシテ戸籍届ヲ致シタモノヤラ、庶子或ヒハ私生児トシテ届出シタノヤラ、ソレトモ右等一切ノ届出ヲ怠リ爾後其ママニ放任ノママト相成ツテ居ルノヤラ一切不明デアル

四、抗告人ハ子供ノ時カラ今日ニ至ル迄何レノ人々カラモ森山ト呼バレテ居タノデ自分ノ氏ハ森山デアルト信ジ自分カラモ自己ヲ森山ト称シテ居ルニ過ギヌ

故ニ抗告人ガ森山ト言フ氏ナルガ故ニ其戸籍アリト速断スル事ハ出来ナイ

五、訴訟法上又ハ審判法上事物ノ存在ヲ証明スル事ハ困難デハ無イカ、事物ノ無イト言フ証明ハ甚ダ困難デ、本件デハ殆ンド不能ニ近カイ事柄デアル

然シ抗告人ハ必ラズ其不存在ヲ証明スル為メ目下専心取調ベ中デアルカラ追而之レガ証明ヲ致ス

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例